シェヘラザードに捧げる物語




 呆気に取られた参加者を後目に、真っ直ぐに新郎を目指して駆け寄ってきた。

 私が新郎新婦の壁になっていなければ、流血していたのは新郎だっただろう。

 彼女はスタッフに取り押さえられながらも、「結婚してくれるって言ったのに!」「ウソつき!」と泣き叫んでいた。

 その場で応急処置を受け、救護室まで同僚に付き添われながらも考えていた。

 ここまでできてしまう熱量は、一体どれほどのものだろう。

 愛した相手を害するほど。

 無関係な人たちを巻き込むほど。

 その姿が悲しくもあり、羨ましくもあった。


(私には、きっとわからないものだから)


 救護室で待機していた医師から手当てをされて、私はしばらくホテルの使っていない休憩室を使うことになった。

 騒動が収まったら、裏口からこっそりと病院に向かう予定だ。


(病院が近くてよかった……)


 ぼんやりとそんなことを考えていると、ドアが控えめにノックされる音がした。