シェヘラザードに捧げる物語




『ええ、示談と接近禁止で。美咲の経歴に傷がついてはかないませんので』

「わかりました、ではそのように」

『ホテルにも損害賠償を請求する所存です』

「それも彼女の意思ですか?」


 俺が淡々と問いかければ、電話の向こうで息を詰めたような音が微かに聞こえた。


『……君塚の愛人が乱入するのを止められなかったのだから当然です、美咲にもそう言い聞かせております』

「では彼女が言い出したことではないんですね」

『事は美咲と君塚個人の問題ではありません』


 サラッとすり替えたなこの人。

 俺は休憩室のドアを閉めながら、舌打ちをしそうになる自分をどうにか抑えた。


「と申しますと?」

『双方共に親族や職場の方々を呼んでおります……その上であのような……君塚にも愛人にもホテルにもケジメをつけさせなくては顔向けできません』


 確かにあの場にはスタッフだけでなくお客が大勢いた。

 誰に責任があるのかをはっきりさせておきたいだろう。