シェヘラザードに捧げる物語




 スマホが震える、今度はメールを受け取ったらしい。


『大賀くんへ、伝え損ねたことがあってメールしました』


 柴田からだ、と気づいてすぐに確認する。

 原嶋さんからの伝言について、追加の内容だった。


『大賀くんと結婚するつもりはないそうです』


 俺はやっぱりな、とスマホを置いた。


 やっぱりあの両親が暴走してるだけだったんだ。


 俺がホッとする暇もなく、今度は電話の着信音が鳴る。画面を見た途端に顔が引きつるのが自分でもわかった。


「……もしもし」


 デスクを離れて休憩室に向かいながら通話ボタンを押す。うんざりした感情が声に出ないよう気をつけていたが、相手には伝わってしまったらしい。


『何かありましたか? ずいぶんお疲れの様子ですが』

「交渉の準備を詰めているところでして」

『そうでしたか』


 脳裏には五十がらみの厳しそうな婦人の姿が浮かんだ。この次に言われるであろう台詞も。