シェヘラザードに捧げる物語




 今度こそスマホにそっと触れて、大賀くんの連絡先を呼び出す。


 早く言わないと。


 あとは、緑色のアイコンをタップして。



 それで。



 頭の中で、勝手にイメージが流れだす。


 夜景の綺麗なレストラン。


 穏やかに微笑む原嶋さん。


 熱のこもった眼差しをした大賀くん。


 談笑している途中で、大賀くんは小さなビロードの箱を取り出し、原嶋さんに向けて開ける。


 そこには透明にきらめく指輪が──



 私はバスルームに駆け込んで、洗面台で顔を洗う。冷たい感覚に息がつまる。

 タオルで顔を押さえて、深呼吸を繰り返してから鏡を見た。


「はは、酷い顔……」


 今にも泣きそうな子どもみたいな顔をした女がそこにいた。

 ふらふらとキッチンに向かい、淹れたままの煎茶にゆっくりと口をつけた。


「熱い」


 煎茶はまだまだ熱くて、飲めるようになるにはもう少し時間がかかりそうだ。

 ……連絡するのってメールでもいいんだよね。