シェヘラザードに捧げる物語




「ない」

『ウエディングプランナーだったらあのホテルじゃなくてもいいじゃない』


 確かに結婚式場はあそこだけじゃない。一ヶ月に何度も怪我をしたり、トラブルに巻き込まれたりするような職場は逆の立場なら当然私だって心配になる。


『警察とか消防とか、危険な仕事なら心配だけど文句は言わない』

『だけどね、どうしてウエディングプランナーの仕事でそんなに怪我をするの?』



『もっと安全に働ける場所があるんじゃないの?』



 矢継ぎ早に送られるメッセージに、私は何も返せなかった。



『このご時世だから再就職できないかもしれないって心配してるの?』

『あんたなら平気だ』

『そんな無責任なことは言わない』

『でももっと安心できる職場にして』


 私があのホテルじゃないといけない理由……か。


「すまん、柴田。待たせた!」


 大賀くんが肩で息をしながら戻ってきたのを見て、お母さんに「友だちが来たからまたあとで」と返してスマホをバッグにしまった。