シェヘラザードに捧げる物語




 それは真っ赤なコートだった。

 赤いコートに黒いブーツを合わせた女性が、真っ直ぐ前を向いて大股で鋭く闊歩していた。

 強くてかっこいい。シンプルにそう思った。

 そうだ。あの人も確か……。


「柴田」


 顔を上げた。知らずにうつむいていたらしい。

 片手を挙げて近づいてくるその人に、私も顔の近くで手を振った。


「大賀くん、この間はありがとう」

「どういたしまして」


 黒い薄手のコートを羽織った彼は、月夜の狼を思い起こさせる。さっきの女性とはまた別の方向で強くてかっこいい。


「病院は行ってきた?」

「うん、結果は来週だって」

「そうか……何もないといいな」


 心配してくれている大賀くんに、私はバッグから封筒を取り出して彼に渡そうとした。


「合ってると思うけど……確認してくれる?」


 大賀くんは目を見開くと、鼻の頭をポリポリと掻いた。


「立ち話もあれだし、昼飯食いながら話そう」