シェヘラザードに捧げる物語




 〈サンダルウッド〉と印字されたタグをもて遊びながら、ビルの壁に寄りかかって大賀くんへのメールを送る。


「駅に着いて、今は駅ビルのイタリアンレストランの近くにいる」


 お昼まではあと四十分くらい。ビルはそこそこ混み始めて、あちこちのお店では二、三人の列ができている。

 平日のお昼ならそんなに人はいないかな、と考えていたけれど、読みは甘かったらしい。


『俺もあと十分くらいで着く。そこにいて』


 送ってから数分、大賀くんからメールが返ってきた。


「わかった、待ってる」


 それだけ送ってスマホをコートのポケットに入れる。アロマもバッグの奥底に隠して、道行く人をぼんやりと眺めた。

 黒や灰、ベージュのコートの群れが右へ左へと足早に去っていく。スマホを耳に当てながらしかめ面をしている男の人が、すぐ目の前を通り過ぎた。

 世界から自分だけ取り残されたみたい。

 壁に背中を強めに押しつける。固くて冷たい感触に浸っていると、視界の端を強烈な赤がかすった。