シェヘラザードに捧げる物語




 店員さんの言葉は飾り気がない。だからこそ心の奥底まで突き刺してくる。

 私は高校生のときのやり取りを思い出していた。あまりにもお粗末で拙かったけれど、あれは精一杯の駆け引きだった。

 うっかりして傷つけるのは嫌だったし、傷つけられるのは怖かった。


「……傷つけずに、傷つかずにいるのは無理なんでしょうか」

「何に傷つくかはその人次第です」


 正論だ。ぐうの音も出ないほどの。

 善意でしたことが好きな相手を苦しめる毒になるかもしれない。それが何より恐ろしい。


「よく寝て、よく食べましょう」

「え」

「疲れてお腹も空いているとよくありません」


 黒目がちの大きな目が、慈しむように私を包む。

 確かにそうだ。自分をまず大切にしないとろくな考えも浮かばない。


「あの、アロマってディフューザー? っていうの使わないといけないんですよね」

「無くても使えます。ティッシュに一滴二滴垂らしてください」


 丁寧な説明を受けて、水色の瓶を一つ購入した。