シェヘラザードに捧げる物語




「一石二鳥、ということわざを習いました……よく眠れて、恋人とも仲良くできます」

「……その、言いにくいんですが……」


 私は正直に彼氏はいないと伝えた。大賀くんの顔がよぎっても頭の隅へと追いやる。


「片思いですか?」


 呼吸が一瞬だけできなくなった。どうしてわかってしまったんだろう。この店員さんは何者だ?

 屈託のない笑顔を向けられて、背筋に緊張が走る。


「幸せで、あったかい雰囲気なので、幸せな恋をしてると思いました」

「そう、ですかね? 自分ではよくわからなくて……」

「恋をすると、客観的になるのは難しいです」


 店員さんは肩をすくめた。外国映画のようだなと思う余裕はない。


「考えすぎて、すぐわかることがわからなくなったりします」

「……どうしてこんなことしたんだろう、とか思うこともあります」

「わかります、臆病になりますから」

「臆病、ですか」

「相手を傷つけたくないし、自分も傷つきたくないからです」