シェヘラザードに捧げる物語




 私はバッグを持ち直した。

 仕事のことじゃなくて別のことを考えよう。ほら、あれだ。大賀くんにお金返さないと。

 遊歩道を抜けて図書館に隣接されているカフェに入る。アイスと迷って結局ホットコーヒーのSサイズを注文した。


「ふぅ……」


 窓際の席に座って小さく息をつく。店内はオレンジ色の照明に、ボサノバが流れていて落ち着いた雰囲気だ。

 スマホを取り出したバッグを足元のカゴに入れる。真っ暗な画面に触れると銀行や支払いアプリの広告が通知された。

 メール画面を開き連絡先一覧から〝大賀 誠太郎〟を見つける。名刺をもらったその日に登録しておいたものだ。

 送信先を設定して文面を考える。

 いつなら大丈夫だろう?

 垣原法律事務所は夜十時まで開いてるってホームページに書いてあったし、その時間以降に……。

 いや、いくらなんでも遅すぎるからお昼の時間とかに直接出向いて手渡しで……。
 
 うーん、いっそのこと銀行振込にさせてもらって……。