シェヘラザードに捧げる物語




 失恋した事実に向き合いたくなくて、顔ごと窓に向けた。刺すような西日に目を細め、どれもオレンジ色に染まる瞬間の美しさに心を傾けたくなった。


「書けたよ、出しに行こう」


 俺は黙って立ち上がった。顔を見る余裕はない。ガタガタと椅子が動かされる音を背に、柴田は一足先に廊下に出た。

 西日が差さない廊下を、蛍光灯の光が冴え冴えと等間隔で照らしていた。その光の中で、柴田の小さな背中がより縮こまって見える。

 俺は大股で歩いて彼女の隣りに並ぶ。

 チラッと視線を向けることもできない。気持ちを整えるにはまだ少し時間がかかりそうだ。

 俺たちは職員室までの道のりを、横並びになって進んだ。二人きりだったけど、とても喜べたものじゃない。神様がもしいるなら、たいそう意地が悪いんだろう。

 友だちにもなれないと宣言してきた好きな奴と、二人だけの時間をくれたのだから。



 ──こうして、俺の初恋はあっさりと砕け散った。