シェヘラザードに捧げる物語




 電話の主は所長だった。

 せっかく柴田と話していたのに……という悪態は飲み下して、俺はスマホのボタンをタップした。


「はい、大賀です」

垣原(かきはら)よ。どう? 状況は?』

「まだ君塚さんとはとても話せなくて、スタッフさんとだけです」

『そう……一度戻ってちょうだい。原嶋さんとも予定を調整しないといけないし』


 垣原所長のテキパキした指示に、俺は二つ返事で応じて柴田に向き直った。


「すまん、送れなくなった」

「だから、大丈夫だって」

「これでタクシー使ってくれ」


 多少……いや、かなり強引に万札を押し付けて病院から駆け出した。

 出費は痛いが、柴田と個人的に繋がっておくためにはこれが一番手っ取り早い。

 少しばかり罪悪感を抱えつつ、最寄りの駅へと急ぎ電車へと飛び乗った。

 息を整えながらメールとチャットアプリを確認する。


『誠太郎、お祖母ちゃんちの野菜、今日送ったからね』


 母さんからのメッセージが先頭に出てきた。