シェヘラザードに捧げる物語

 


 だけど、剥がれかけていた掲示物を、誰に言われるでもなく直しているところを偶然見かけてから、何となく目で追ってしまうようになってからが始まりだったように思う。

 私だけが知っている、なんて傲慢なことを言うつもりはない。

 私のように、胸がときめくのを隠しながらも目で追ってしまう子が何人かいる。同じだから、すぐにわかってしまった。


「書けた」


 見た目よりも、ずっと穏やかなテノールが私の耳をくすぐった。

 短い、たった三音の言葉でも、その声を聞きたがる子がいる。


(そんなこと思いもしないんだろうなぁ……)


 ちょっとだけ大賀くんを恨めしく思いながら、私は自分の分をしっかりと埋めていく。学習の記録や感想・反省欄。できるだけ丁寧に書いて、彼との時間を一秒でも伸ばそうとしていたっけ。


「……あのさ」

「っ……なに?」


 もしやバレてしまった?

 焦りで声が裏返りそうなのを、どうにか阻止して大賀くんに応じる。