シェヘラザードに捧げる物語




 川島さんの怪我の理由はわかった。でもどうして大賀くんが付き添って病院に来たんだろう。


「他の人たちは、怪我は?」

「スタッフは軽い怪我だけです、君塚さんとお父様は打撲がひどかったんですが……」

「病院には行かないし行かせないの一点張りだったんです」


 川島さんの言葉を引き継ぎ、大賀くんが付け加えてくれた。


「恥ずかしくてとても行けない、情けないと……」


 私は君塚さんのお父様を思い浮かべる。昔気質で、無口で、四角い顔でむっすりとした表情にとっつきにくさを感じていた。

 奥様を早くに亡くし男手ひとつで育てたそうで、「親孝行をしたいとずっと思っていた」と君塚さんは嬉しそうに語っていたのに。


「キツいですね……」

「ひどすぎる……」


 川島さんと二人して落ち込んでいると、受付から声がかかった。


「川島さん、中へどうぞ」


 だいぶ話し込んでいたらしい。壁の時計を見ると午後七時を示していた。