シェヘラザードに捧げる物語




「マジか」

「まぁ、あんなの見せられたらドン引きですよね」


 下手をしたら自分も巻き込まれてしまうかもしれない。

 そう考えるのは普通のことだし、もっと安全な職場に勤めたいと願うのも当然だ。


「二人は辞めようと思ったことないですか?」


 ペンの試し書きに集中しているような振りをして、私は二人の様子をうかがった。


「まぁ……あるかな」

「私も迷いました」


 明らかに曲がって使いものにならなくなったペンを横に置く。


「ご家族が反対した、とかですか?」

「された。すごいされた」

「私も夫から……」


 そうだよね。やっぱり家族は嫌だよね。

 お母さんの顔を思い浮かべながら、指をのろのろとペンに伸ばす。


「でも……なんだかんだ上手くいくと嬉しいんだよな」

「そうですね。幸せなお客様を見ると、この仕事やっててよかったって思いますし」

「それはここじゃなくてもできることですよね?」