シェヘラザードに捧げる物語




 私が了承すると、誠太郎くんは困り眉で軽く頭を下げた。


「その、申し訳ないけど荷物は取らせてくれないか?」


 私も苦笑してドアを開ける。

 誠太郎くんは一瞬だけ腕を広げて、決まりの悪そうな顔で下ろしてしまった。


「止めとこう」

「そうだね」


 とてもじゃないけど触れ合う気分じゃない。

 それは誠太郎くんも同じようで、さっさと荷物をまとめてしまった。


「朝ごはん、手伝ってくれてありがとう」

「どういたしまして」


 緩やかな会話に、お母さんとのことは夢だったんじゃないかと思ってしまう。

 作ってくれた二人分の朝食は、ちゃんとテーブルの上にあるのにね。


「それじゃ、三日後に」

「うん、三日したらまた」


 ドアが静か閉められて、革靴の音が遠ざかっても、私は玄関で立ちすくんでいた。


「ごめんね、誠太郎くん……」


 目の奥が熱くなった……と思ったら、頬をいくつもの雫が流れていった。