シェヘラザードに捧げる物語




「……転職が難しいのはわかってるよ」

「そうだね、確かにそれもある」

「他に大切な理由があるんだね?」


 誠太郎くんはすぐに私の言いたいことを察したらしく、落ち着いた声音が返ってきた。


「そう、私にとってはすごく大事な理由」


 冷えていた指先は少し暖かさを取り戻し、玄関ドアにそっと触れる。


「それを教えてくれないか?」

「絶対に私の味方になってくれると約束してくれるなら」

「……」


 沈黙が流れる。

 誠太郎くんは弁護士だ。言葉の重みを人よりよく知っている。


 だからこそ、半端な気持ちで約束なんてしない。


「それは……律が結園で働くことを応援して、お母さんを一緒に説得するって意味で合ってるか?」

「合ってる」


 お互いの考えにズレはないと確認した誠太郎くんは、腕を組み鼻の頭をかいた。


「考える時間をくれないか? 三日ほしい」

「三日だね、わかった」