シェヘラザードに捧げる物語




 ──ピンポーン!


 玄関からのチャイムに、思い出にひたっていた私の意識が戻る。

 のろのろと向かえば、インターフォンに媚びるような誠太郎くんの顔が映った。


「ただいま、送ってきたよ」

「……ありがとう」

「柴田さんがね、娘をよろしくお願いしますって」

「そう」


 どうしてだろう。何を聞かされても、風のように耳をすり抜けていく。


「誠太郎くん、今日はもう帰って」


 驚くほどあっさりと、拒絶が喉から漏れた。

 そんな自分にどんな感情も湧いてこない。


「え、どうしたの?」


 よく言えたね、そんなこと。

 口から飛び出しそうになるのを抑えて、できるだけ冷静に説得しようと考えを巡らせる。


「私に辞めてほしいの? 仕事」


 息を呑む気配が伝わってくる。


「違くて……その、別に結園じゃなくてもいいだろう?」

「結園じゃないと駄目なの」


 間髪入れずに言い切ると、誠太郎くんは何度も瞬きをして視線をあちこちに向けた。