シェヘラザードに捧げる物語




 誠太郎くんが耐えられないとばかりに立ち上がった。


「まぁ! いいんですよ。もうすぐ出来上がりますし、お客さんに手伝ってもらうわけにはいきませんから」


 お母さんの声がとたんに優しくなる。完全によそ行きの状態だけど、さっきまで素の顔を見せていたのに騙せると思っているんだろうか。


「そもそも来るなんて聞いてない……」

「そりゃそうね。言ってないし」


 お母さんは開き直ってキッチンに戻ってしまった。アポ無しで訪問とか飛び込み営業じゃないんだから。

 社会人としての常識はどうなってるんだと怒りたいけれど、誠太郎くんの手前もあって小さくなっているしかできない。


「二人とも、できたよ―」


 お母さんの呼びかけに、少しだけ実家に帰ってきたかのように錯覚する。

 お父さん、元気かな。


「ありがとうございます……」


 誠太郎くんはすっかり萎縮してしまっている。かわいそうに。