シェヘラザードに捧げる物語




「ごめんだけど、本当に律のお母さん?」


 気配を消して私の隣りにそっと座ってきた彼に、そう囁かれた。


「知らない人が入ってきたとかじゃないよね?」

「残念ながら、うちのお母さんです……」


 ひそひそと交わす会話に気づいているのかいないのか、お母さんはキッチンから顔を出した。


「アンタ、やっと朝ごはんちゃんと食べるようになったの?」


 やばい。


「あたしがいくら言ってもコーヒーだのスープだのですませてたじゃない。今日は大賀さんが来てるから見栄張って作ろうとしてるだけ? 普段から料理しないからまともに目玉焼きも──」

「お母さん朝ごはん食べてきたの?」


 裏返った声でさえぎると、お母さんはため息をついて額に手を当てた。


「話を逸らすぐらいなら料理くらい面倒くさがらずやりなさい!」


 大変ごもっとも。

 ごもっともだけど!


「あの、やっぱり座っていてください。お疲れでしょう?」