シェヘラザードに捧げる物語




 洗い物を代わってもらい、私は朝食の材料を買いに外へ出た。

 澄み切った青空は美しくて、スズメの鳴き声も楽しげだ。

 こうしていると、世界には苦しいことも悲しいこともなくて、幸せや喜びだけでこの世は作られているような気がしてくる。


 ……だいぶ浮かれてるな。


 わざとホテルで関わった事件を思い返して、気持ちを落ち着かせようと試みる。



 ──誠太郎、だ。



 駄目だ。

 昨日の夜の大賀くんがどうやっても消えてくれない。



 ──律、苦しくないか?


 ──俺に爪、立ててくれていいからな。


 ──俺だけって言って? 律?



 一度思い出したら次々と記憶がよみがえってきて、恥も外聞もなくしゃがみ込んで顔を覆いたくなってしまった。


 本当にお付き合いを始めちゃったんだ。

 大賀くんと。


 確かにそのはずなのに、幻覚でも見てるような、奇妙な感覚。

 もしかしたら長い夢を見てるのかもしれない。