シェヘラザードに捧げる物語




 誰かの怒鳴り声や悲鳴、物が壊れるか倒れる音がBGMになって気持ちがざわざわする。

 これ騒ぎが終わるどころか広がっているんじゃないだろうか。


『いやいや! 大丈夫だから、怪我治すのに集中して! 一週間ぐらい休み取って!』

「……わかりました。それじゃあ、失礼します」


 受話器をそっと置く。明日には忘れものを取りにきたふりして様子をうかがおう。


「……これ、俺のほうが残らないといけないやつだな」


 大賀くんが額に手を当てて俯いた。十中八九……ううん、十中十その通りだろう。

 私は彼に向き直って口角を上げた。


「ありがとう、やっぱり一人で行くよ」

「すまん、偉そうなこと言っときながら」


 項垂れる姿に首を横に振った。


「しかたないよ」

「あとで絶対に連絡するから」

「うん、待ってる」


 大賀くんが先に立ってドアを開けてくれた。私たちは休憩室を出て、そのまま廊下で逆方向へとそれぞれ向かう。

 私は病院へ、彼はスタッフルームへ。