シェヘラザードに捧げる物語




 ホテルでは思ってもいなかった光景が広がっていた。


「春日野さん……?」


 ボロボロの春日野さんが、原嶋さんに寄り添われて座っていた。


「ああ、どうも」

「その……大丈夫ですか?」


 青紫に変色した左目に、唇の端ににじんだ血。

 服もめちゃくちゃで、ボタンが千切れてしまっている。

 もしかして君塚さんに……と嫌な想像が頭の中を駆け巡り、俺は片膝をついてささやくように声をかけた。


「ちょっとキツいんで……奥の部屋にいる君塚さんのお父さんに事情を聞いてもらっていいですか?」

「わかりました……ええと、お大事に」

「原嶋さんは……ここにいたほうがよさそうですね」


 柴田の言葉に、すすり泣いている原嶋さんは強くうなずいた。


「大丈夫ですよ。原嶋さんに怪我がなくてよかった」


 春日野さんが力なく笑うと、原嶋さんは首を横に振って目元を拭った。

 ……これは二人きりにしておいたほうがよさそうだ。