シェヘラザードに捧げる物語




 所長の言葉に俺は頷くしかない。


「連絡してホテルに向かいます」

『そのほうがいいわ』


 俺は電話を切ると、ぼんやりした気分で照屋に電話をかけた。

 さっきまで想像していた最悪の事態──君塚さんに見つかって、ひどいことになってしまう未来──が外れたことへの安堵。

 それが俺の心を占めていた。


「もしもし」

『もしもし、大賀? もう着いたのか?』

「見つかったよ。結園で保護されてる」


 しばらく沈黙があって、照屋が恐る恐るといったように声が聞こえてきた。


『その……結園って、あの……』

「結園ホテル」

『そう、そうか』

「ご両親に伝えてやってくれ。俺は結園に行って話聞くから」


 照屋の気の抜けた返事を最後に、スマホをポケットにしまう。


 ……なんだか疲れてしまった。


 先ほどよりはゆっくりした足取りで駅へと向かおうとする。


「あれ、大賀くん?」


 最近よく聞くようになった声が、俺を呼び止めた。