シェヘラザードに捧げる物語




 俺は畑宮さんの家の前に来ていた。

 こじんまりしたアパートの二階の角。

 そこが、あの披露宴の日に聞き出した住所だった。

 日中はマシとはいえ、風はまだまだ寒い。できれば外に連れ出して、喫茶店かどこかで話をさせてもらいたいが……そもそも居るだろうか。


 ネクタイを整え、姿勢を正す。


 指をインターフォンに置いた瞬間。


「誰だ一体……」


 俺のスマホが鳴った。


 誰なのか確認せずに出る。出鼻をくじかれたようで決まりが悪く、早々に終わらせてしまいたかった。


『大賀ぁ……』

「……ああ、わかってたよ」


 照屋の情けない声を聞き、悟りでも開いたような気分になる。

 そうだ。あいつはこういうときに連絡してくるような奴だった。


『美咲がいなくなって……』

「いなくなった?」


 今までにない深刻な事態に心が一気に張り詰める。


「いつ? どこでだ?」