シェヘラザードに捧げる物語




 身を乗り出して、小声で問いかける。

 川島さんは周りを気にしながら頷き、話を続けた。


「そもそも妹さんにお願いされたんです。姉がいつまでも控え室から出てこないから、一緒に行ってほしいって」

「……思い出した。新婦さんの友だちが元カレっぽい人を見たって噂してて」


 あれは確か、招待客を案内していたときだ。

 トイレに行きたくなって、アルバイトの子にいったん任せて化粧室へと駆け込み、しばらくしてから新婦友人らしき人たちがわいわいと入ってきた。


「ねぇ、さっきロビーのほうで見ちゃったんだけどさ……」

「ああ、グレーのスーツ着た人だよね?」

「あれってさぁ……あれだよねぇ」


 声のトーンを落として話し合ってはいるものの、どこかワクワクしている感じは声から伝わってくる。


「マジ未練タラタラじゃん」

「あの子どうすんだろ? もしかして着いていったり……」

「どうだろね」