シェヘラザードに捧げる物語




「ええ、まぁ」


 俺が曖昧に濁すと、原嶋さんも控えめに頷いた。


「美咲、どうだい? 大賀さんは……優しくて誠実でいいお方だろう」

「お父さん、そろそろ行きましょう」


 大賀さんは仕事がありますから、と原嶋さんが急かす。


「照れなくてもいいじゃないか」

「お父さん、忙しいのに来てくれたのよ……大賀さん、今日はありがとうございました。いずれそのうち」

「こちらこそ、楽しかったです」


 当たり障りのない挨拶を交わして、俺は二人に別れを告げようとした。

 このままここに居たら、今日中にも婚約をさせられそうだ。


「大賀さん、どうでしょう。貴方さえよければうちの美咲と──」


 天の助け、とばかりにスマホが震えた。


「すいません、失礼」


 少し離れた場所で電話に出ると、所長からだった。


「どうだった? 話し合いは」

「進みましたけど、婚約させられるところでした」

「そりゃ災難だったわね」