シェヘラザードに捧げる物語




「でも悪いことばかりではないんです。君塚を追い払ってくれますし」

「君塚さんが来たんですか?」


 どうして連絡を……と言いそうになって、危うく飲み込んだ。

 原嶋さんではなく、直接対峙した彼女の両親から聞き出そう。


「君塚のお父さんがあの後倒れられたそうで、実家に来るだけじゃなくて、電話やメールもしてくるんです」

「それは……過保護にもなりますね」


 彼女が父親の運転する車でやってきたことを思い出した。頭を深々と下げられて、「娘をお願いします」と真摯な声で頼まれたときの、あの何ともいえない気持ちが込み上げる。


「原嶋さんは君塚さんを訴えたいですか?」


 俺の率直な問いに、彼女は悲しげに首を横に振った。


「いいえ。二度と私や家族に関わらないと約束していただければ、それで結構です」

「では、接近禁止を一番に願うと」

「はい。訴えるつもりはありません」


 そこは親と同じ意見か。