シェヘラザードに捧げる物語

 


 彼女は「では何かありましたら内線で呼んでください」と当たり障りのない会釈を残して休憩室を去っていった。部屋の中が気まずい沈黙に包まれる。


「……それでは、簡単な聞き取りをさせていただきます」

「はい」

「もし具合が悪くなったときは、遠慮せずにおっしゃってください」

「わかりました」


 そう思っていたのは私だけだったらしい。大賀くんは「おまえ柴田だよな?」と確認するでもなく、淡々と事情聴取を始めてしまった。

 いや、高校のときの思い出話をされてもちょっと困るからいいんだけど。


「……では、あの女性が突然乱入してきたということですか?」

「はい、私にはそう見えました」


 私が短く答えると、大賀くんは長い指でキーボードに入力していた。私の手より二倍もありそうな手で、小型のノートパソコンを操作しているのを何となく見つめる。


(高校のときより精悍になったなぁ……)