シェヘラザードに捧げる物語




 そうだ。そのためだったら、私は恋を諦めても惜しくはない。

 だから。


「色々とスレスレだろうとやり遂げますよ」

「……」


 照屋さんの喉仏が上下した、と思ったら、急に姿勢を正した。


「実は……僕は別の理由があってここに来たんです」

「別の理由?」

「はい」


 照屋さんはあの事件当日に、原嶋さんを心配するあまり自宅に不法侵入しようとして怒られたことを話してくれた。

 訴えない代わりに会話を盗聴してくるよう命じられたことも。


「だから僕も」


 照屋さんは耳にイヤホンをつけて、力強く頷いた。


「全力でこの仕事を完遂します」


 ……どうしてだろう。頼もしいのに不安が過ぎるのは。

 協力的なのはありがたいはずなのに。


「あっ、早速来ましたよ」


 小声で指摘されて振り向けば、大賀くんと原嶋さんが私たちの斜め後ろの席に座るところだった。

 いよいよだ。

 私は何でもない振りをして、提供された前菜を口にした。