「……蘭」
「はい」
「お前に、不自由させたくなくて、
ここまでやってきたつもりだ」
その言葉の裏に、
長い年月の重さが滲んでいる。
「学費も、生活費も、
全部、何とか工面してきた。
お前が本を好きだと言えば、
できる限り買ってやった。
それで、お前の夢が
『小説家になりたい』だと言うなら、
まだ口は出すまいと思っていた」
蘭は、
拳を握りしめたまま、
動けずにいる。
「だが、結婚となれば話は別だ。
自分一人の問題ではない。
相手の人生も、
将来の子どもの人生も絡んでくる。
そんな中で、
『なんとかなる』などという言葉は、
聞きたくない」
