こもれび日和

喉が渇いて、
さっき飲んだ水の味すらよく思い出せない。

でも、蘭が横で
静かに息をしている音だけは、
はっきり聞こえる。

「蘭さん」

「はい」

「俺……蘭さんといると、
 ご飯の味も、景色も、
 何でもない会話も、
 全部、ちょっと特別に感じるんだ」

「……」

「映画を一緒に観た日も、
 うちで一緒に料理した日も、
 雨の日にラテを半分こした日も、
 ぜんぶ、何回も思い出す」

言葉を探しながら、
ゆっくりと前に進めるように。

「だから、もし良かったら——
 これからも、隣で、
 一緒にご飯を食べたり、
 本の話をしたり、
 そういう時間を、
 当たり前みたいに重ねていきたい」

蘭は、両手を膝の上で組んだまま、
じっと律を見つめていました。
頬が少し赤く、
瞳の奥が、いつもより潤んでいる。

「それって……」

「……僕と、付き合ってほしいです」

やっと言葉になった瞬間、
律の心の中で、
何かがカチッと音を立てて
はまったような気がしました。

短い沈黙。

春のあの日と同じように、
たった数秒が、
何分にも伸びて感じられる。

「私——」
蘭は、
ぎゅっと唇を結んでから、
小さく息を吸いました。