バレンタインデーはチョコより甘いものを

 今日はバレンタインデー。恋人たちが愛を分かち合う神聖な祝祭。
 片思いにとっては運命の日。私も同じ恋する乙女だから、皆をつい応援しちゃう。

 でも、そんな内気な自分はやめにする。
 今年こそは勇気を振り絞って、“愛の刻印”を彼に届けたいと思ったから。

 笑った顔も、伏し目がちに黒板を見つめるその横顔も。
 クラスのざわめきに少しだけ遅れて振り返るそのしぐさも。

 全部があまりにも美しすぎて、それがいつか消えることなんて耐えられなかったのだ。

 だから私は最大級の愛の証明として、“残す”ことに決めた。

 ――誰にも壊されず、誰にも消されない場所に

 私の部屋の壁は、ほとんど空いていなかった。
 教室で居眠りしている彼も、駅前でスマホを見下ろす彼も、誰かと肩を並べて歩く彼も、みんな同じ大きさで同じ距離に貼られている。
 少し画質が荒いものもあるけれど、それが人生の甘美さ。

 どれもとっても大切な瞬間だから、優劣はつけられなかった。
 彼の全てがここにある。彼の生きた証は私が全て記憶する。

「……今日中に完成させなきゃ」

 私は椅子に座り、パソコンの画面を見つめる。
 保存が完了するたびに小さな通知音が鳴り、確認してファイル名を整えまた次の写真を選ぶ。

 これは単調な操作だけど、全てのクリックが彼そのもの。
 ミスは彼への冒涜だから、保存形式を間違えないようにもう一度確認した。

「……大丈夫だよ、あなたは刻印されるから。心配しないで」

 私は写真を選んで、文字列だけのリンクを作る。
 世界中に分かれて置かれる場所。
 どこにあるかは、私にも分からない。

 誰か一人が拒んでも、もう無かったことにはできない場所。

 次に小さなメッセージを入力する。
 長い言葉はいらない。

 一度書いたら、二度と上書きできないから。

 送信ボタンを押すと、画面の表示が変わる。
 履歴に戻っても、そこにはもう何もない。

 これで大丈夫。彼はちゃんと残る。

 私はすぐにSNSのメッセージを開いた。
 長い説明は書かなかった。

 愛は、
 読むものじゃなくて、受け取るものだから。

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 私からの気持ちです。
 ここからいつでも見られます。

 https://cloudflare-ipfs.com/ipfs/QmXXXXXXXXXXXXXX
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