GL短編集

彼女はいつも23時47分にLINEを既読にした。
それより1分早いと既読がつかない。1分遅いと既読がついた瞬間に「ごめん寝てた」と返ってくる。
正確に言うと、彼女は「23:47既読ルール」を自分に課していた。

「なんでそんな中途半端な時間なの?」と聞いたら、「だって24時だと『今日も待ってた』みたいで気持ち悪いじゃん。23時だと『まだ起きてるんだ』って思われても恥ずかしくないし。だから47分。ちょうど中途半端で、狙ってる感が消える時間」

私はそれがすごく好きだった。
面倒くさいのに、どこか理屈が通っていて、彼女らしいと思った。
付き合って8ヶ月。
私たちは一度も「好き」と言わなかった。
一度も「会いたい」と言わなかった。
一度も「明日何してる?」と聞かなかった。
代わりに決めた暗黙のルールがいくつかあった。

・最後に会った日から数えて11日目に、どちらかが必ず「そういえば」とか「そうだった」から始まる、どうでもいい報告を送る

・その報告に対して、相手は48時間以内に「へー」とか「そっか」以上のリアクションを返す
・それ以上は続けない

・キスは「じゃあね」の直前、改札の前、信号待ちの最後1秒、必ず3秒以内で終わる

・「おやすみ」は言わない。代わりに「…」を一個だけ送る

私たちはこれを「ルダス型の恋愛」と呼んでいた。
ルールだらけで、距離だらけで、でもその隙間が気持ちいいやつ。
ある日、彼女が突然ルールを破った。
23時47分に既読がつかなかった。
翌日も、翌々日も。
11日目の「そういえば」も来なかった。
私はルールブックを破るのが怖くて、23日間何も送らなかった。
そして24日目の夜、
23時47分ちょうどに、彼女から一通だけ届いた。

「…」

ただそれだけ。
私は15秒考えて、返した。

「…」

既読は、23時47分についた。
それが最後だった。
今でも思う。
あれは別れだったのか、それとも、彼女なりの「これからもよろしく」の合図だったのか。
どっちでもいいのかもしれない。
だって私たちは、最初から
「好き」とか「ずっと」とか言わないルールで始まっていたんだから。
残ったのは、スマホの通知履歴に残る、23:47という数字と、「……」という一個の空白だけだ。