『間もなく、3番ホームに電車がまいります。危険ですので、黄色い線の内側までお下がりください。到着する電車は、普通・西片口行きです。』
荻森駅の3番ホームに電車が滑り込んでくるなり、私の髪や制服のスカートがばたばたとはためく。
降車する乗客の波が止んでから、車内に乗り込む。
空いている席に座り、紺色のジャンパースカートの内ポケットからスマホを取り出す。
Xのタイムラインにはいつも通り、何も変わらない同級生たちのつぶやき。
『学校だりー。まだ火曜かよ』『現代文の田中、課題出しすぎ』『きょうから桐原久遠の月9始まる!楽しみすぎて寝れん』
桐原久遠。テレビで見ない日はないほどの、今いちばん勢いのあるマルチタレントだ。
イケメンで、学歴も高くて、コメントも上手い。ニュースのコメンテーターをやったり、スポーツ番組に出たり、とにかく大人気だ。
完璧すぎて、本当に自分と同じ生物なのか疑ってしまうほどだ。
機械的に画面をスクロールしていくと、ふと車両がガタンと揺れた。
顔を上げると、栄養ドリンク片手に計算されつくされた笑みを浮かべた、桐原久遠の中吊り広告が目に入った。
まもなく、車内アナウンスが流れる。
ゆっくりと減速して、やがて停車し、電車のドアが開いて同じ制服の女子生徒が乗り込んできた。
私の存在を認めたその女子生徒が、「篠瀬さん、おはよ」と声をかけてくれる。
「おはよー。」
特に言葉を交わすこともなく、その女子生徒は2つ前の列の窓側の席に座った。
がたん、がたん、と不規則に揺れる車窓からの景色が、前から後ろに流れていく。



