この二人の政略結婚に意義ある者は、今すぐ申し出よ。さもなくば永遠に沈黙せよ。

 愛人くらい、当然のこと。毅然として、貴族らしく振る舞うのよ。

 そうした方が良い事は、わかっていた。私たちは家の事情で結婚するのだから……だから、そうしなければ。

 そうしなければ、おかしい。

 頭では理解していたけれど、身体は別の反応を示した。くるりと身体を反転させて、元来た道を辿りはじめた。

 私は何も見ていない。何も見ていない。これから、結婚する相手が異性と会っていたことも、決して問い詰めたりなんて……してはいけない。

 だって、政略的な理由で結婚するノアは、私のことを愛していないのだから。

「……シェリル!」

 急に手を掴まれて私は驚いた。どうやら、会っていた彼女を置いて、ノアが私を追いかけてきたらしい。

 ああ……大丈夫なのかしら。私は本当に偶然にここに現れただけで、彼のことを尾けたわけでもない。それを、信じて貰えるかしら。

 こんな状況になっても、私はノアに誤解されて、嫌われることを恐れていた。

「ノア……その、ごめんなさい」

 唇と声が震えてしまった。私は彼の美しい緑色の瞳を、いつものように見る事は出来なかった。