狂犬な彼は、図書室で私だけを甘く噛む。

誰もいない図書室。

彼は私を近くの席に座らせると、目の前の椅子に腰掛けた。

「佐藤」

「……はい」

「眼鏡、取ってみろ」

「えっ? でも、私、目が悪いし……」

「いいから」

断りきれず、私はゆっくりと眼鏡を外した。
ぼやけた世界の中で、城戸くんの顔だけが近くにある。
彼は指先で、私の長い前髪をそっと耳にかけた。

「……やっぱり」

「なにが……?」

「お前、ずっとそうしてろ。隠しとくのはもったいない」

彼の顔が、ゆっくりと近づいてくる。
逃げなきゃいけないのに、体が動かない。

鼻先が触れそうな距離で、城戸くんが囁いた。

「俺さ、お前のこと、地味だなんて思ったこと一度もない」

「城戸、くん……」

「図書室で一生懸命本を運んでるのも、誰も見ないような花を大事そうに描いてるのも、全部見てた。……あいつらに見つかる前から、俺がお前を見つけてたんだ」

彼の大きな手が、私の両肩を包み込む。

不良の彼らしい、少し硬くて、でも驚くほど温かい手。

「俺は、お前がいい。……佐藤美月がいい」

「……いいか。俺が他の奴に見せたくねぇっつってんのは、顔だけじゃねぇよ」

城戸くんの声が、さらに低く、熱を帯びる。
彼は私の首筋に顔を埋めると、耳たぶのすぐ下、柔らかい肌に熱い吐息を吹きかけた。

「ひっ……っ、城戸くん、……っ」

ゾクゾクとする刺激に身をすくませた瞬間、チリッとした小さな痛みが走った。

「……あ」

城戸くんが、私の首筋に甘く、牙を立てるように噛みついたのだ。マーキングするような、強引で、でも愛おしさがこもった仕草。

「お前は俺のもんだ。……忘れんなよ」

そのまま、吸い上げるように唇を離した彼の瞳は、獲物を捕らえた獣のようにギラリと光っていた。

本の紙の匂いと、彼の仄かなたばこの香りが混ざり合う。それは、私が今まで読んだどんな恋愛小説よりも、甘くて刺激的な瞬間だった。

「……城戸くん、私……」

「返事は、まだいい。……ただ、これからは俺の隣にいろ。どこにも行かせねぇから」

それは、独占欲に満ちた、彼らしい不器用な告白。
私は真っ赤な顔で、でも確かに、彼の制服の胸元をギュッと握り返した。