狂犬な彼は、図書室で私だけを甘く噛む。

「あ、あう……っ」

情けない声を出しながら、私は床に這いつくばって紙を拾い集めた。終わった。きっと怒鳴られる。あるいは、邪魔だと蹴り飛ばされるだろうか。

ギュッと目をつぶって、衝撃に備えた。

けれど、数秒経っても痛みは来なかった。
代わりに聞こえてきたのは、カサリという紙の音。

「……これ、お前が書いたのか?」

恐る恐る目を開けると、城戸くんが私のバインダーの一枚を手に取っていた。それは、私が趣味で描きためていた、校庭の隅に咲く名もなき花たちのスケッチだった。

「あ、あの、それは……っ! 下手くそなんですけど、その……!」

「……上手いじゃねぇか。写真みたいだ」

意外な言葉に、私は動きを止めた。

城戸くんは、地面にしゃがみ込んだまま、私の拙い絵をじっと見つめている。

至近距離で見る彼の横顔は、噂で聞くほど怖くはなかった。むしろ、彫刻のように整っていて、少しだけ寂しそうに見えた。