狂犬な彼は、図書室で私だけを甘く噛む。

「……ふぅ。これで、全部かな」

放課後の図書室。夕日が差し込む古い本棚に、
私は最後の一冊である『植物図鑑』を差し込んだ。

私の名前は、佐藤美月(さとう みつき)。高校2年生。
クラスでの存在感は、ほぼゼロ。分厚い眼鏡と、長すぎる前髪。おまけに口下手とくれば、誰からも話しかけられないのも当然だ。

でも、私は「透明人間」のような立ち位置が嫌いじゃない。

誰にも邪魔されず、静かな図書室で本の背表紙を眺めている時間は、私にとって唯一の息抜き。ここは、私だけの聖域だった。

はずだったのに。

「——おい。いつまでそこに突っ立ってんだよ」

背後から降ってきた低い声に、私の心臓は跳ね上がった。
振り返ると、そこには図書室に最も似つかわしくない人物がいた。

城戸蓮。
この学校で彼を知らない者はいない。金髪に近い明るい茶髪、耳に並んだいくつものピアス。常に誰かを威嚇(いかく)するような鋭い視線。ついたあだ名は「狂犬の城戸」。

喧嘩に明け暮れ、教師も(さじ)を投げる最凶の不良。

「ひっ……! ご、ごめんなさい!」

私は咄嗟に謝って、逃げるようにその場を去ろうとした。
けれど、慌てすぎたせいで足がもつれ、持っていたバインダーを床に派手にぶちまけてしまう。