陰陽寮の裏で、私は所謂壁ドン状態で追い詰められていた。
相手はもちろん緋暮。
彼は笑ってこそいるが、目尻がぴくぴくと動いている。これは、かなり苛立っている時の顔だった。
「今日という今日は逃がさへんよ」
「ちょっ……近い! 近いから!」
漆黒の瞳は、どろりとした妖しい光を帯びていた。
「何で避けるん? 僕のこと嫌いになった?」
「ちが……」
「そやな、違うよなぁ? 自分からキスまでしといて」
「っ〜〜〜!?!」
緋暮が妖魔化したときの話をされ、声にならない声が出る。
「椿ちゃんの気持ち聞かせてくれるって、約束したのに」
「い、言ったじゃん! あのとき!」
「『妖魔暴走が終わったら』って話やったやん。あれは真っ最中だったからまた別」
「なによその理屈っ!」
「分かった、じゃあ僕ももっかい言う」
緋暮は私の両手を取り、指を重ねる。
恋人繋ぎなんて生優しいものじゃない、それは怨念のこもった拘束だった。
「椿ちゃん、好きや、大好き。僕と付き合って。ずっと一緒にいよ、病める時も健やかなる時も、死が二人を分かつその後も――」
蜂蜜よりも甘い京都弁が、耳に注がれていく。顔が熱くて堪らない。頭がくらくらしてきた。
「で、返事は?」
「うぅ……わ、私も緋暮が、好き」
ついに観念して俯くと、がばっと強く抱きしめられた。
「よし、結婚しよ」
「けっ、けっこん!?」
「僕が十八になったらすぐ、籍入れよか」
びっくりして顔を上げると、視線が合う。彼の目は本気だった。
「……僕は中学を卒業したら京都に戻って、芦ヶ谷を継ぐ。そして、あやかしと陰陽師が仲良うやれるよう西部を改革するつもりや。やから椿ちゃん、一緒に着いてきてくれへん?」
伝統を重んじる西部の改革……それはきっと、物凄く大変なことだ。
ごくりと唾を飲み込んだ私を見て、緋暮は少しだけ不安げな顔になった。
「バディ、僕じゃなきゃ嫌なんやろ?」
「う、うん」
「じゃあ、僕と結婚しよ?」
縋るような声。
切ない瞳に耐えきれず、私は頷いた。
「け……結婚、するからっ!」
恥ずかしすぎて涙が出てきそう。
だけど、緋暮は「あやかしと仲良く」って私の夢を、本気で一緒に叶えてくれようとしている。それが何より嬉しかった。
彼は目を見開き、さっきよりも強く、ぎゅうううっと抱きしめてきた。
あまりの力の強さに、涙が引っ込む。
「ちょ……苦しい苦しいっ! ギブギブ!」
「ギブとか無いから」
そう言いつつも、若干力を緩めてくれた。締め殺されるかと思った。
「言っとくけど、浮気なんかしたらほんまに締め殺すからな?」
お、重っ!!!
「今『重っ!!!』って思ったやろ」
やばい、バレてる。
「悪いけど、もう離す気ない。大人しく諦めてもらわななぁ」
「わ、私だって! 緋暮のこと、離してあげないもん!」
漆黒の瞳が一瞬だけ金色に光ったかと思うと、緋暮は蕩けるような笑みを浮かべた。
「蛇の愛はしつこいで?」
「うぅ……臨むところなんだからっ!」
彼の指先が、するりと頬を撫でる。
「――絶対、幸せにする」
そして、ゆっくりと顔が近づき――私は蛇に、飲み込まれてしまったのだった。
相手はもちろん緋暮。
彼は笑ってこそいるが、目尻がぴくぴくと動いている。これは、かなり苛立っている時の顔だった。
「今日という今日は逃がさへんよ」
「ちょっ……近い! 近いから!」
漆黒の瞳は、どろりとした妖しい光を帯びていた。
「何で避けるん? 僕のこと嫌いになった?」
「ちが……」
「そやな、違うよなぁ? 自分からキスまでしといて」
「っ〜〜〜!?!」
緋暮が妖魔化したときの話をされ、声にならない声が出る。
「椿ちゃんの気持ち聞かせてくれるって、約束したのに」
「い、言ったじゃん! あのとき!」
「『妖魔暴走が終わったら』って話やったやん。あれは真っ最中だったからまた別」
「なによその理屈っ!」
「分かった、じゃあ僕ももっかい言う」
緋暮は私の両手を取り、指を重ねる。
恋人繋ぎなんて生優しいものじゃない、それは怨念のこもった拘束だった。
「椿ちゃん、好きや、大好き。僕と付き合って。ずっと一緒にいよ、病める時も健やかなる時も、死が二人を分かつその後も――」
蜂蜜よりも甘い京都弁が、耳に注がれていく。顔が熱くて堪らない。頭がくらくらしてきた。
「で、返事は?」
「うぅ……わ、私も緋暮が、好き」
ついに観念して俯くと、がばっと強く抱きしめられた。
「よし、結婚しよ」
「けっ、けっこん!?」
「僕が十八になったらすぐ、籍入れよか」
びっくりして顔を上げると、視線が合う。彼の目は本気だった。
「……僕は中学を卒業したら京都に戻って、芦ヶ谷を継ぐ。そして、あやかしと陰陽師が仲良うやれるよう西部を改革するつもりや。やから椿ちゃん、一緒に着いてきてくれへん?」
伝統を重んじる西部の改革……それはきっと、物凄く大変なことだ。
ごくりと唾を飲み込んだ私を見て、緋暮は少しだけ不安げな顔になった。
「バディ、僕じゃなきゃ嫌なんやろ?」
「う、うん」
「じゃあ、僕と結婚しよ?」
縋るような声。
切ない瞳に耐えきれず、私は頷いた。
「け……結婚、するからっ!」
恥ずかしすぎて涙が出てきそう。
だけど、緋暮は「あやかしと仲良く」って私の夢を、本気で一緒に叶えてくれようとしている。それが何より嬉しかった。
彼は目を見開き、さっきよりも強く、ぎゅうううっと抱きしめてきた。
あまりの力の強さに、涙が引っ込む。
「ちょ……苦しい苦しいっ! ギブギブ!」
「ギブとか無いから」
そう言いつつも、若干力を緩めてくれた。締め殺されるかと思った。
「言っとくけど、浮気なんかしたらほんまに締め殺すからな?」
お、重っ!!!
「今『重っ!!!』って思ったやろ」
やばい、バレてる。
「悪いけど、もう離す気ない。大人しく諦めてもらわななぁ」
「わ、私だって! 緋暮のこと、離してあげないもん!」
漆黒の瞳が一瞬だけ金色に光ったかと思うと、緋暮は蕩けるような笑みを浮かべた。
「蛇の愛はしつこいで?」
「うぅ……臨むところなんだからっ!」
彼の指先が、するりと頬を撫でる。
「――絶対、幸せにする」
そして、ゆっくりと顔が近づき――私は蛇に、飲み込まれてしまったのだった。
