あやしき恋と陰陽師!

 いやこれ、抱きしめられるっていうか、締められかけてる!?

「ちょ、痛い痛い! いや、痛いのは緋暮だよね?! 足!」
「幸せすぎて全然痛ないわ、なんや傷も塞がった気するし」
「塞がってないよ!? すごい傷だから!」

 大慌ての私とは対照的に、緋暮は嬉しそうな顔をしている。
 足から血流れてるのに!
 
「ほんまに痛くないんやけどなぁ……せやったら熱護符貸してくれへん? 炙って止血するわ」
「だから何でそんな方法ばっか! あとで周くんに治してもらうからね!」

 私が怒ると、少し考えるように顎に手を当てた緋暮は、さっき放った刀を拾いに行った。

「【天網恢々、疎にして漏らさず。刻む刹那は永久に】」

 唱えた彼はそのまま、再び自分の足を刀で斬る。

「ちょ、何してんの!?」
「いやほら、僕って半分はあやかしやろ? 足だけ時止めたら、止血できるやんって。な?」

 確かに血はピタリと止まっていた。緋暮の術に、こんな応用方法が……いや、過激すぎるって!
 
「ほら椿ちゃん。今は先にやることあるんやろ?」

 緋暮の視線の先には、彼の母がいた。

「……貴女()、浄化が使えるのね」

 彼女は呆然と、こちらを見つめていた。

「よくもあんな、椿の幻覚見せてくれたなぁ? 性悪は遺伝やってよ〜く分かったわ」

 緋暮はものすごい形相で母親に凄んでいた。よく分からないけどこれ、めちゃくちゃ怒ってる時の顔だ。
 
 氷の膜は既にほとんど溶け落ちていて、本気を出せばいつでも脱出できるはず。だけど彼女の瞳にはもう、殺意はなかった。

「あなたたちは、本当に想い合っているのね」

 彼女は、諦めたようにふっと笑う。

「……本当にごめんなさい。許されようとは思わないわ、緋暮……どうか母さまを祓って」

 項垂れる母親を見て、緋暮は溜息をついた。

「僕も最初は、あんたを祓うつもりやったんやけど。僕の好きな子は……あんたのことも、浄化してあげたがってるみたいやからなぁ」

 緋暮は私の肩を引き寄せる。彼の言葉に、胸がきゅっと締め付けられた。

「でも! 母様は、小さい緋暮を捨てて逃げたのよ」

 私は首を振って彼女を見つめる。

「私、思ったんです。緋暮を連れていかなかったのは……人として生きることも選べるように、だったんじゃないかって」
 
 あやかしにも、人間にもなりきれないと。彼は昔寂しそうに呟いていた。
 だけどもし彼女が緋暮を連れて逃げていたら、彼はあやかしとしてしか生きられなくなる。

「眷属のシロを生み出したのだって、彼を守るためだったんじゃないですか?」