あやしき恋と陰陽師!

「待ってっ!」

 ――ザッ!
 咄嗟に首を振って避けたものの、髪が何本か切れる音がした。

 ――ザシュッ!
 明確な殺意が頬を掠め、ピリッと痛んだ。

「お願い……元に戻ってよ!」

 力の限り叫ぶけど、彼の刀は止まらない。

 ――バシュッ!
 攻撃を躱そうと突き出した錫妖杖が、彼の胸元の五芒星のペンダントを掠める。
 その瞬間――杖とペンダントが共鳴した。
 
 ――キーン!
清らかな音と共に、ペンダントが光り……緋暮の金の瞳が微かな正気を取り戻す。

「椿、ちゃん」
「緋暮、よかっ――えっ!?」
 
 グサリ。
 聞こえた音に、彼の行動に目を疑った。

 顔を顰めた緋暮が刀を逆手に取り、自分の足に突き立てたのだ。

「はよ、祓って。僕も、長くは保たん……!」

 陰陽師の制服から血が流れる。
 目を見開いた私を安心させるかのように、彼は小さく笑った。
 
「大丈夫、痛いのには慣れとるから。やから、はよ……」

 諦めたような顔を見て、かつての彼の言葉が蘇る。

『僕やって、いつか妖魔に堕ちるかもしれへん。もしそうなったら……椿ちゃんが僕のこと、祓ってくれる?』

 だけど私はあの時、誓ったのだ。
  
「――絶対、祓ってなんかあげないんだから!」

 緋暮はもどかしそうに、苦痛に顔を歪めている。
 チカチカと瞳の光が失われそうになって、また光を取り戻す。
 
 斬刻刀を足から引き抜き構え直した緋暮は、歯を食いしばって刀を遠くに放り投げた。
 
 妖具は陰陽師の命だ。
 それを放り投げなきゃいけないくらい、限界が近いんだろう。
 
「やけどこのままじゃ僕、椿ちゃんを殺してしまう……!」
「何それ」

 こんな状況なのに、思わず笑ってしまった。
 緋暮が私を殺せるわけ、ないじゃない。

 私、あなたが好き。
 今ならはっきり、自分の気持ちが分かる。

 一歩一歩、彼に近づく。
 大好きな人に、ありったけの愛を込めて詠唱した。
 
「【我は汝を愛す者、揺蕩い巡る現世の花。穢れを流すは恋の雨。赦しの灯火、いま宿せ――】!」

 そのまま彼の唇に――キスを落とす。
 
「大好きだよ、緋暮」

 その途端、彼は柔らかな光に包まれ、穢れていた妖力が浄化されていく。
 妖魔からあやかしへと、戻っていく。

 ゆっくりと唇を離し、私は笑った。
 
「言ったでしょ? もし緋暮が妖魔になったって、私が浄化してみせるって」
「何、を……」

 緋暮は顔を真っ赤にしたかと思うと、ぐぐぐっと私を思い切り抱きしめた。