あやしき恋と陰陽師!

「出てこい、シロ」
 
 ピアスを弾き、己の契約あやかしを召喚する。肩に乗ったシロは、遠くの岩に座る女に向かって、シャーッと激しく威嚇した。

 こちらに気づいた妖魔の女は、ばさりと黒装束を脱ぎ捨てる。
 現れたのは、真っ赤な着物に白い髪、金色の瞳をした――僕の母親だった。
 
「やっと会えて嬉しいわ、緋暮」
「生憎やけど、僕は嬉しくない。よくも関係ない陰陽師を巻き込んでくれたな」

 北條の娘――撫子と言ったか。彼女には、悪いことをしたと思う。
 
 これは完全に、芦ヶ谷の起こした不祥事だ。僕が手酷く彼女を振り払ったことも、この女につけ込まれた要因の一つだろう。

 これ以上他の人間を巻き込むわけにはいかない。
 特に、椿ちゃんは。

 優しい彼女を連れてくれば、僕を思ってあの母親を浄化しようって、無理するに決まってる。

 だけどこの女は、正体を隠していた当時、最強の陰陽師だったらしい。
 情けをかけて戦って勝てるほど、甘い相手じゃない。

 カマイタチに斬られそうになった時の、椿ちゃんの姿が蘇る。あんな思いはもう二度としたくなかった。

 妖魔を浄化してあやかしに戻し、仲良くなる。彼女の理想は応援すると決めたけど、それでも確実に勝てる相手の場合じゃ無ければ認められない。
 だから、今回ばかりは彼女を連れてくるわけにはいかなかった。
 
 ――怒られるやろなぁ。

 後悔したくないって告白したけど、振られるかもしれないなぁ。それでもしつこく口説き続けるつもりだった。

「ふぅ……」

 深呼吸をして、刀に手をかける。
 
 妖魔になってしまった母親を、自らの手で祓う。
 半妖半人の僕が、唯一つけられる落とし前だ。

「シロ、捕縛や」

 言うと同時に駆け出す。
 道中襲いかかってくる蛇やカエル、サソリに蜘蛛の群れを、刀で斬って散らしていく。

「うぐッ!」

 巨大化したシロが、彼女を縛り上げた。抜け出すのは不可能だ。全身筋肉と言っても過言ではないほど、蛇は筋肉量が多いから。

 母は顔を顰めて叫んだ。

「母さまにこんなことして、酷いと思わないの?!」
「思わへん。父上――あの男に利用されたのは同情するけどな」
「う、ぐぅ……ッ!」
「安心しぃ。クソ親父はいずれ、僕が引導渡したるから」

 妖魔といえど成人女性の体格じゃ、シロを振り解けるわけもなかった。
 
「さよなら、母上」

 刀を振り上げて、一気に下ろそうとした、その時だった。

「――なんてね。ふふ、我が息子ながら愚かよね」