あやしき恋と陰陽師!

 ぷるぷる震える私とは対照的に、落ち着いた様子の緋暮は周囲を見回す。

「僕は残った妖魔がいないか確認してくるわ。椿ちゃんはその娘、陰陽寮に届けて」

 冷静で的確なバディの指示に、私はただ頷くことしかできない。
 こうして私たちは一度、別行動となった。

 心ここにあらずのまま陰陽寮で撫子ちゃんを引き渡すと、不思議そうな顔の周くんに声をかけられる。

「どうして椿さんがここに? あの妖魔を倒しに行ったんじゃ――」
「あの妖魔って、何の話?」

 首を傾げる私を見て、周くんは血相を変える。

「――まさか緋暮さん、椿さんに伝えずに!?」
「なに、どういうこと?」

 舌打ちが聞こえた。乱暴な口調の周くんは初めてで驚いていると、彼は悔しそうに言う。

「妖魔暴走の黒幕は、緋暮さんの母親なんです! あの人は一人で倒しに行ったんだ!」
「っ!?」

 衝撃の事実が告げられた。

「でも、緋暮のママは亡くなったって!」
「生き延びていたんでしょう。僕はてっきり、お二人で浄化に向かったものと……!」

 そんな、どうして?
 どうして私を連れて行ってくれなかったの!?

 その時、浄化した撫子ちゃんに「ごめんなぁ」と言っていた緋暮の顔が蘇った。
 あれは……あれは、母親が撫子ちゃんを利用したことへの謝罪だったんだ!

「……芦ヶ谷の始末は、芦ヶ谷だけでつける。そういうつもりなのかもしれません」

 家がどうこうってのは、私には分からない話。
 だけど、頼ってくれないなんてあんまりだよ。

 ――私はバディなのに……私のこと、好きって言ったくせに!

 周くんは険しい顔をした。

「相手は蠱毒術を使う女です、橋姫やおフユ、カマイタチも操られていた可能性が高い。注意してください!」

 蠱毒術……!
 生物を使って毒にする術だ。思い返せばあやかし講習のとき、橋姫たちは「何かに刺された」って言ってた。
 そうか、私を噛んだ蛇も蠱毒だったんだ。

「周くん! その妖魔の居る場所、詠める?」
「さっき彼に伝えたところで……くそっ。今は結界維持と治療でこれ以上妖力を割けないんです! ですが方法はあります、これを!」

 周くんは懐から何かを取り出した。その瞬間、すごい妖力を感じる。
 これは――
 
「彼の契約あやかしの抜け殻です。この妖力を辿れば、緋暮さんに追いつけるはず!」
「シロの……! ありがとう、周くん!」

 抜け殻を握りしめる。

「私を置いていくなんて! 緋暮のやつ、あとで一発殴ってやるんだから!」
「ぼくもです。だから椿さん――無事に二人で帰って来てくださいね」
「任せて!」

 周くんの激励を受け取って、全力で駆け出した。