「くっ……! 【急急如律令】ッ!」
発生した妖魔暴走によって、私は無限に襲い来る妖魔を祓っていた。
一人じゃとても、浄化の隙はない。
「【急急如律令】!」
「緋暮!」
背後の声に振り返る。己のバディを一目見ただけで、一気に心が落ち着いた。
「キリないわ! 雑魚は僕が止めたる――浄化を!」
「っ! うん!」
――浄化、してもいいって……!
その許可は、私への信頼だった。
緋暮は地面を蹴って跳躍する。
「【天網恢々疎にして漏らさず、刻む刹那は永久に】」
彼が刀を振り抜くたび、妖魔たちの時が止まる。
「【我は汝を還す者、揺蕩い巡る現世の花。罪を流すは、】」
――チクリ。
その時、足首に激痛が走り、詠唱が止まってしまう。
「いッ!」
視線を落とすと、私の足首に噛み付いている蛇が見えた。
慌てて杖で振り払い、蛇が飛んできた方を向くと……木の影で薄く微笑む少女が見えた。
おぞましいほどに美しくて、不気味な笑み。あれは。
「撫子ちゃん……!?」
そう。日本人形みたいなその子は……緋暮の許嫁を名乗っていた、北條撫子ちゃんだった。
距離を取ろうと力を込めた直後、異変に気づく。
――足が、動かない!
さっき蛇に噛まれたせいで、毒が回ってるんだ!
ドクドクドク。
毒の影響か、血が巡るたびに身体の奥底から苦痛、怒り、恐怖が湧き上がってくる。
無理やり私の中に作られた負の感情を、どうにか振り払おうと首を振る。
「足が……! ヘビっ、ど、毒っ」
回らない舌で助けを求めると、状況を理解した緋暮が血相を変えて撫子ちゃんを睨んだ。
「お前ッ!」
しかしぎゅっと唇を引き結んだ緋暮は私のもとへ駆け寄ると、刀を自ら指先に当て――浅く引いた。すぐに傷口から血が流れ出す。
「緋暮……なに、を」
「飲んで」
