あやしき恋と陰陽師!

「……何を。貴女には関係のない話でしょう」

 妖魔の女に何らかの術にかけられているのだと、自覚する。しかし手足の自由はきかず、金縛りのように指一本動かせない。
 
『関係があったとしたら? 憎き芦ヶ谷緋暮の秘密、知りたくはない?』
「秘密? はっ、西部のスパイだとでも言うつもりですか?」

 ――くだらない。ぼくだってその程度、とっくに想定している。
 
 無視しようとしたその時、蛇の肌みたいに冷たい声が、耳に吹き込まれる。

『ふふ……芦ヶ谷緋暮は――半人半妖。蛇のあやかしと、人間との間に生まれた化け物なのよ』

 馬鹿な、と思った。
 しかしその反面、彼が纏う特殊な妖力を思い浮かべて納得してしまった。
 
 ――あれは、あやかしの気配だったのか……!
 
『うふ、このままでは愛しの彼女を取られてしまうわね。 陰陽師と正体を偽って東部を乗っ取ろうとしている、あの化物に!』

 チクリ、チクリ。
 腕に足にと走る痛みは、すぐに憎悪となって全身を巡る。

『芦ヶ谷緋暮が憎いのよね? そうでしょう?』

 女は高笑いと共に、生まれた憎悪を煽り、増幅させていく。それはまるで、()が回るみたいに――。

 ――毒?
 そんな比喩が浮かんだ瞬間、思わず叫んでいた。

「【狐火焼灼(こかしょうやく)】!」

 ――ゴオオオッ!
 ぼくの腕を、足を、刺された箇所の一帯を、かつてコンヤから貰った狐火が焼いていく。肌を焦がす痛みが、澱んでいた思考を晴らしてくれた。

「ぐっ……!」

 自分の喉から呻き声が漏れる。
 
 通常使い手自身が狐火に触れても、熱を感じることはない。しかしその火が今痛いのは……ぼくの血に巡っていた邪悪な毒を、消毒しているからだった。

「は、ははっ……!」
 
 妖魔の女の驚いている気配に、笑いが込み上げてくる。
 
 焼かれた肌がジクジクと爛れていく。今まで生きてきた中で一番痛いし、息が苦しい。
 それでも激痛より、この状況への愉快さが勝った!

『一体何を……!?』
「貴女の術は見破りました。これは――()()ですね」

 “蠱毒”。
 一つの壺の中に、蛙やサソリ、蛇などの有毒生物を大量に入れて共食いさせる。そして残った一匹を最も強い毒とする呪術だ。

「ここ最近の、異常な妖魔化。あれは貴女の蠱毒術によって行われていた」
「…………ッ!」

 妖魔の女は悔しそうに歯噛みする。正解ってことだ。
 
 ――この女、ぼくを誰だと思っているんだろう?

 そう思うと、また面白くなってきた。

「貴女が何の妖魔か知りませんが、良い度胸ですね?――現代唯一の治癒師に、毒を盛ろうなど!」

 黒装束を纏った()()()()の女は、手にしていた煙管を地面に叩きつけ、グシャリと踏み潰す。

 彼女は憎々しげに顔を歪め、舌打ちを残して消え去ったのだった。