あやしき恋と陰陽師!

『【我は汝を還す者、揺蕩い巡る現世の花。罪を流すは慈悲の雨。赦しの灯火、いま宿せ】!』

 そして彼女はついに、浄化をやり遂げる。あり得ないセンスと膨大な妖力で、それを成してみせた。
 
 それがどれだけ凄いことかも分かってないみたいに、彼女はぱあっと笑ったのだ。

 こんなに、綺麗な人がいるんだ。
 多分その時にはもう、心を奪われていた。
 
 朝霞椿――椿さん。
 一つ年上で、太陽みたいに明るくて、誰よりも優しい人。
 ぼくが恋に落ちてしまったのも、当然だと思う。

 その後は犬飼さんの意向で、ぼくたちはバディを組むことになった。

「よろしくね、周くん!」
 
 ぼくが結界で妖魔の動きを封じ、椿さんが浄化する。この作戦はなかなかに効果的で、ぼくたちは多くの妖魔をあやかしに還していった。上手くやっていた。

 しかし、バディを組んで数ヶ月経ったある日のこと。
 椿さんの詠唱中に、ぼくの結界が破られてしまう。

 相手は妖狐。あやかしの中でも特に強い種だった。

 結界を破った妖狐は嫌な笑みを浮かべたかと思うと、“戦えない“ぼくに狙いを定め、襲いかかってきた。
 伸ばされた爪に切り裂かれることを覚悟した瞬間――横から突き飛ばされる。

 ――ザシュッ!
 一秒前までいたところには、椿さんがいて……爪で裂かれた制服の下からは、血が吹き出していた。

「なっ……つ、椿さん!?」

 倒れた彼女に駆け寄ると、狐の尾から現れた炎が向かってくるのが見えた。
 咄嗟に結界を張る。

 ――ジュッ!

 結界が炎……狐火を弾いた。
 なおも妖狐の攻撃は続いたが、もはやぼくの意識はそこになかった。

「椿さん、椿さんっ!」

 彼女の制服が赤黒く染まっていく。

「周く……ん。ぶじ……よ、かった……」

 痛くて苦しくて堪らないはずなのに、椿さんは笑った。
 自分は大怪我を負ったのに、庇ったぼくが無事なのを確認して、笑ったのだ。

「何も……何も、よくないです!」

 流れる血は止まらない。
 彼女のポニーテールが、地面に広がる。

 まるで散り際の花みたいで、ゾッとした。