『円環の印を持ちし者、大いなる癒しの力に目覚めん』
詠暦院がそんなお告げを詠んだのは、ぼくが生まれた日のこと。
環の紋様を手の甲に持って生まれたぼくは、七歳の頃、東部陰陽寮に引き取られることになる。
治癒の能力者が生まれるのは数十年ぶりだとかで、貴重だなんだと周りが騒がしかった。
まだ目覚めてもいないのに神童扱いされるのは、すこぶる居心地が悪い。詠暦院に最年少で所属してからはすぐに、暦詠みの勉強を始めた。
詠暦院の仕事は暦詠み――妖魔の種類、出現時刻、出現場所を詠むこと。
詠暦院が正確に暦を詠めなければ、被害は拡大し調妖院にも負荷が掛かる。
前線に出ずとも、背負う責任は大きい仕事だ。
九歳にもなる頃には、大人に混じって一人で暦詠みを任せられるくらいになった。しかし、一向に治癒能力は目覚める気配が無かった。
"永遠に目覚めぬ治癒能力者"。
そんな蔑称が囁かれていることにも、気づいていた。
犬飼さんは気にしなくて良いと言ってくれてたけど、大人たちがお告げの信憑性を疑う声はどうしても耳に届く。
治癒能力なんて知らない。
勝手に期待して勝手に失望するなよ。ずっとそう言いたかった。
毎晩手の甲の円環の紋様を睨んだ。侮られるのも、妬まれるのもうんざりだった。
だからぼくは、東部の誰よりも暦詠みの勉強をした。
書庫をひっくり返し、学校以外の時間は全て暦の把握に費やす。まだ手にしていない不確定な能力ではなく、持っている力で評価されたかった。
幸にして妖力もセンスもあったみたいで、十歳になる頃には結界だって張れるようになった。
慣れてしまえば簡単だ。脳内に叩き込んだ妖魔の情報と東部の地形を、妖脈の揺らぎと重ね合わせるだけ。
しかしどうやら、それが出来る人は他にはいないらしい。気づけば大人を含めても、暦詠みでぼくに並ぶ者は居なくなった。
治癒の素質を買われて引き取られたぼくは、治癒の力無しに東部陰陽寮で成り上がった。
愚かなことに、それで大人を見返したつもりでいたのだ。
ある日のこと。
ぼくは妖力に目覚めた少女、「朝霞椿」の存在を詠んだ。陰陽師の素質を持つものが現れれば、それを見つけるのもまた詠暦院の仕事だからだ。
そして彼女を東部陰陽寮にスカウトしに行った際、都合よく妖魔が現れた。
いや……本当はわざと妖魔を誘導して、彼女と引き合わせた。その素質を見極めようとしたのだ。
たとえ彼女が祓えなかったとしても、最悪ぼくが結界で妖魔を抑え、調妖院に引き渡せば良いと思っていた。
あれほど他人に見定められることを厭っていたぼくは、同じことを彼女にしようとしていたんだ。
だというのに、あろうことか彼女は――妖魔を、あやかしに戻してあげたいだなんて言い出した。
詠暦院がそんなお告げを詠んだのは、ぼくが生まれた日のこと。
環の紋様を手の甲に持って生まれたぼくは、七歳の頃、東部陰陽寮に引き取られることになる。
治癒の能力者が生まれるのは数十年ぶりだとかで、貴重だなんだと周りが騒がしかった。
まだ目覚めてもいないのに神童扱いされるのは、すこぶる居心地が悪い。詠暦院に最年少で所属してからはすぐに、暦詠みの勉強を始めた。
詠暦院の仕事は暦詠み――妖魔の種類、出現時刻、出現場所を詠むこと。
詠暦院が正確に暦を詠めなければ、被害は拡大し調妖院にも負荷が掛かる。
前線に出ずとも、背負う責任は大きい仕事だ。
九歳にもなる頃には、大人に混じって一人で暦詠みを任せられるくらいになった。しかし、一向に治癒能力は目覚める気配が無かった。
"永遠に目覚めぬ治癒能力者"。
そんな蔑称が囁かれていることにも、気づいていた。
犬飼さんは気にしなくて良いと言ってくれてたけど、大人たちがお告げの信憑性を疑う声はどうしても耳に届く。
治癒能力なんて知らない。
勝手に期待して勝手に失望するなよ。ずっとそう言いたかった。
毎晩手の甲の円環の紋様を睨んだ。侮られるのも、妬まれるのもうんざりだった。
だからぼくは、東部の誰よりも暦詠みの勉強をした。
書庫をひっくり返し、学校以外の時間は全て暦の把握に費やす。まだ手にしていない不確定な能力ではなく、持っている力で評価されたかった。
幸にして妖力もセンスもあったみたいで、十歳になる頃には結界だって張れるようになった。
慣れてしまえば簡単だ。脳内に叩き込んだ妖魔の情報と東部の地形を、妖脈の揺らぎと重ね合わせるだけ。
しかしどうやら、それが出来る人は他にはいないらしい。気づけば大人を含めても、暦詠みでぼくに並ぶ者は居なくなった。
治癒の素質を買われて引き取られたぼくは、治癒の力無しに東部陰陽寮で成り上がった。
愚かなことに、それで大人を見返したつもりでいたのだ。
ある日のこと。
ぼくは妖力に目覚めた少女、「朝霞椿」の存在を詠んだ。陰陽師の素質を持つものが現れれば、それを見つけるのもまた詠暦院の仕事だからだ。
そして彼女を東部陰陽寮にスカウトしに行った際、都合よく妖魔が現れた。
いや……本当はわざと妖魔を誘導して、彼女と引き合わせた。その素質を見極めようとしたのだ。
たとえ彼女が祓えなかったとしても、最悪ぼくが結界で妖魔を抑え、調妖院に引き渡せば良いと思っていた。
あれほど他人に見定められることを厭っていたぼくは、同じことを彼女にしようとしていたんだ。
だというのに、あろうことか彼女は――妖魔を、あやかしに戻してあげたいだなんて言い出した。
