あやしき恋と陰陽師!

 月食が終わる。
 治癒師であるぼく、保科周は一晩中、怪我人の治療や結界補助で大忙しだった。

 全ての仕事が落ち着いた夜明け頃のこと。
 誰かが陰陽寮に入ってくる気配がした。
 そしてぼくは、見てしまったんだ。

 身を寄せ合った、椿さんと芦ヶ谷さんを。

 一瞬息が止まり、心臓がぎゅっと握りつぶされる心地がした。
 冷や水をかけられるような感覚から、仲睦まじい二人から逃れたくて、ぼくは徹夜のままふらふらと陰陽寮を出た。

 曇り空の下、当てもなくただ歩く。
 二人の仲が深まっていることには、気づいていた。
 
 失恋、かな。
 だけど椿さんが笑っていられるなら、それでも――。
 
 考え込んでいるうちに、気づけば知らない場所に迷い込んでいた。
 
「芦ヶ谷緋暮が、憎いの?」
「っ!?」

 声をかけられ振り向くと、傘と煙管を手にした黒装束の女が立っていた。
 注視して、ぞわりと全身の毛が逆立つ。

 ――椿さんレベルの妖力!? こんな気配に気づけなかったなんて、あり得ない!

 警戒を露わにするぼくを見て、女はくるりと傘を回し、呪文を唱える。

「【()(あやかし)よと煙を潜れば、(むし)(どく)も同じこと。(そう)を秘めるが世の常ならば、(くゆ)(けが)れもまた(さだ)め】」
「妖魔か……!」

 漂ってくる黒い煙を吸った瞬間、ぐらりと視界が暗闇に包まれた。

「――あなたの記憶、見せて頂戴な?」