月食の日、僕は部屋にこもって大人しくしてるつもりだった。この日はどうしても妖力の制御が効かず、完全にあやかしの姿になってしまうから。
半人半妖の僕ですらこれなんだから、普通のあやかしは更に妖力が不安定になる。妖魔に堕ちやすい、と言い換えてもいい。
だから、浄化を使わないことを椿ちゃんに約束させた。僕がいれば多少の無茶も出来るけど、一人ではそうもいかないから。
しかし何度彼女に約束させても、不安は拭えなかった。
浄化無しでも、椿ちゃんは東部で一番の実力者だ。いつもあれこれ言っているけど、僕だって内心認めている。ただ、エースだからこそ、月食の日は一番妖魔が発生しやすいエリアを任されるはず。
不安だった。僕の知らないところで、椿ちゃんに何かあったら?
カマイタチの時を思い出す。あれは本当に焦った。
危険を顧みない姿にあれほど怒りが湧いたのも、激情のままにバディ解消を突きつけたのも、保科くんと組むと聞いてイライラしたのも。
いつの間にか自分の中で、椿ちゃんの存在が大きくなっていたから。
彼女は僕の身体の傷を見てショックを受けながらも、目を逸らさなかった。
まっすぐな彼女に惹かれていくたび、隣に立つことに後ろめたさを感じた。後ろめたさ、なんて殊勝な感情が自分にまだ残ってたことにも驚いた。
そして訪れた月食の夜。
ピンチに陥った椿ちゃんは救えたけど、ついに正体がバレてしまった。
だけど本当は、知って欲しかったのかもしれないとも思う。だから、フードを捲るその手を止めなかったんだ。
僕は過去を語った。
半分はあやかし、半分は人間。
どちらにも属せない自分が、誰より妖魔を祓っている。
一歩でも何か間違えていたなら、僕はきっと祓われる側にいた。
「僕やって、いつか妖魔に堕ちるかもしれへん。もしそうなったら……椿ちゃんが僕のこと、祓ってくれる?」
これは本気で聞いたことだった。
祓われるなら椿ちゃんが良いと思ったから。
だけど彼女は泣きながら首を振った。
「もし緋暮が妖魔になったって……私が浄化してみせるから!」
――あー。
こんなんもう、認めるしかないわ。
椿ちゃんが、好きだ。
バディとしても女の子としてもこんな感情を抱くのは、生涯で彼女ただ一人だけ。
だからこそこれ以上、僕の問題に巻き込むわけにはいかない。
――東部にも椿ちゃんにも、手出しなんかさせへん。
僕は一人、心の中で誓ったのだった。
